学びの内容

コシ モリヒコ

越 森彦 教授(大学院 フランス語フランス文学専攻主任)

専門分野

ジャン=ジャック・ルソーを中心とした18世紀フランス文学とレトリック

自己紹介・学生へのメッセージ

■文学部 フランス語フランス文学科
同じことを言っていても、「なるほどなぁ」と思わず納得してしまう人がいる一方で、「それって本当なの?」と疑りたくなる人がいるのはなぜでしょうか。どんなに立派なことを言っても、その人の見た目がいかにもうさんくさそうだと、その人の言っていることを信じるのは非常に難しくなります。つまり、本当に人に信じてもらおうと思ったら、話す内容だけでなく、その話をしている自分自身がどう見られているのかを意識するのが大事です。説得的に議論を展開するために、優れた書き手では、自分自身のイメージに配慮しています。レトリック(言葉による説得の技術)の世界では「エートス」と呼ばれている、この「自己イメージ」(image(s) de soi)の研究をしています。

■大学院 フランス語フランス文学専攻・ 言語・文学専攻(博士)
「訴訟趣意書」(mémoire judiciaire)と呼ばれる法定書類が18世紀フランスにあったのですが、これを「自己イメージ」の観点から研究できないものかと考えています。法廷書類というといかにも堅苦しいですが、「訴訟趣意書」は18世紀後半におけるフランスの三面記事的事件を巧みな語り口によって報告してくれます。今のところは、この「訴訟趣意書」を読むだけで精一杯ですが、「自己を語るエクリチュール」(écriture de soi)が啓蒙の世紀に成立・発展した歴史・社会的背景を「スキャンダル・ジャーナリズム」との関係から解明できればと考えています。

趣味はマラソンです。自己ベストは3時間22分。

白百合 フランス語フランス文学科
担当科目
■文学部 フランス語フランス文学科
フランス語総合IA・IB(既習クラス)
フランス文学概論
専門ゼミ「レトリック ー 言葉による説得の技術を学ぶ」
フランス文学歴史研究G
卒業論文
担当科目の内容

■文学部 フランス語フランス文学科
◇フランス語総合IA・IB◇
一年生の既習者を対象にして、文法を教えています。「日本人がいつまでもたっても外国語ができるようならないのは、文法の細かいことばかり気にしているからだ」といった類の俗説に惑わされないようにしましょう。また、近年、否定的に捉えられることの多い「文法・訳読方式」ですが、「和訳」という作業を通じてしか確認できないことがあります。本当にフランス語の文章を読めているかどうかを確認するためには、母語である日本語を媒介とするのが一番よいし、それ以外手段がありません。文法と和訳抜きの学習でも、いわゆる旅行会話程度ならマスターすることができるでしょう。しかし、大学とは旅行会話以上の、それ以外の何かを追求する場であるはずです。

◇フランス文学概論◇
この授業では、フランス文学史に残る重要作品の中でも比較的読みやすいものを抜粋で読んでいきます。その際には、ただ読んで感想を言い合うだけでなく、文体を分析して、自分なりの解釈を導き出せるように訓練します。文体の分析にしろ作品の解釈にしろ、何もない状態からは何も生まれません。より深く、より楽しく読むためには、やはり最低限の予備知識が必要となります。この授業では、文学史に関する予備知識を習得するところから始めます。次に、その知識を実際の読解においてどのように活用させることができるのかを検証します。

◇専門ゼミ◇
・レトリック — 言葉による説得の技術を学ぶ
ゼミは教師が自分の知識や意見を披露する場ではありません。ゼミは学生が自らテーマを発見して自ら問いを立て自ら答えを出すための訓練をする場です。そして、−これが一番大切なのですが−自分の意見を他者と共有する技術(これが「レトリック」です)を磨く場です。以上の理由から、ゼミは以下のような⽅針に基づいて⾏っています。

  • 修辞学と議論法の訓練には文学作品を素材とするのが最適なので,研究対象はフランスの文学作品とする。

  • 学生が自分で研究対象となる作品を選ぶ。

  • 教師に頼らないように、教師が詳しくない作品を選ぶことが望ましい。

  • 共通の研究テーマも「レトリック」とする。つまり、ある作品において作家や登場人物の意見がどのようにして主張されているのかを分析する。

  • 各回のゼミでは最初に15~20分の時間内で誰かが自分の研究について発表をする。その後、やはり15~20分の時間内で発表の内容について全員で議論する。

  • 自分の意見を説得的に述べる方法と他者の意見を批判的に検討する方法あるいはレポートや論文の書き方といった研究の技術については段階を追いながら学びます。

業績
  • « L’affaire Rousseau-Hume : vers l’éducation du lecteur » (『人文学報』第355号、東京都立大学人文学部、2004年)

  • « Les images de soi chez Jean-Jacques Rousseau : l’autobiographie comme politique » (2007年1月に口頭審査を受けた博士論文。グルノーブル・スタンダール第三大学提出)

  • « La provocation (?) de Rousseau –L’implicite dans la «dédicace» du second Discours » (『日本フランス語フランス文学研究』第92号、日本フランス語フランス文学会、2008年)

  • 「ルソーによる、ルソーのためのカリカチュア -「礼節」を込めて」(『人文学報』第406号、首都大学東京都市教養学部人文・社会系 東京都立大学人文学部、2008年)

  • 『白百合で学ぶフランス文学』(共著、弘学者、2011)
    「文学研究をめぐる座談会」という対話形式の文学入門です。文学なんて自分には関係ないと思っている人もぜひ読んでみてください。

  •  Les images de soi chez Jean-Jacques Rousseau : l’autobiographie comme politique, Classique Garnier , 2011.
    ヨーロッパ文学最初の自伝である『告白』を書いたので、ルソーというと赤裸々に自己の人生や私生活に描いた作家というイメージが強いです。しかし、ルソーは自分が読者に与えたいというイメージを巧みに計算して書いているのではないか?という疑問をもとにして書いたのがこの本です。ルソー好きには結構ショックかもしれません。

  • 『語学・文学研究の現在II』(共著、弘学社、2012)

  • 『ルソーと近代-ルソーの回帰・ルソーへの回帰』(共著、風行社、2014)

  • 『文学と悪』(共著、弘学社、2015)

  • 「ヴォルテールの『リスボンの災禍についての詩』とポウプ流オプティミズム : 《 Whatever is, is right.》 vs 《 Tout est bien. 》」(白百合女子大学『研究紀要』第51号、2015)

  • 『2016年度版仏検公式ガイドブック 傾向と対策+実施問題 準2級』(共著、公益財団法人フランス語教育振興協会(APEF)、2016)

  • 「論争家ルソー : 『ヴォルテールへの手紙』のレトリック分析」(中央大学人文科学研究所『人文研紀要』第84号、2016年)

  • « Le mémoire judiciaire et Les Confessions de Jean-Jacques Rousseau : scène judiciaire et écriture de soi »(中央大学人文科学研究所 『人文研紀要』 第90号、2018年)

  • 「ルソーの『エフライムのレヴィ人再考—連想遊戯のような解釈を疑う」(『引用の文学史 フランス中世から20世紀文学におけるリライトの歴史』、篠田勝英・海老根龍介・辻川慶子編、 水声社、 2019年)

  • 「ジャン=ジャック・ルソーのレトリック 『学問芸術論』における論点の変更」(⽩百合⼥⼦⼤学『研究紀要』第56号 2020年)

  • 「ジャン=ジャック・ルソーのレトリック(2) 『ボルド氏への最後の回答』における水掛論批判」(⽩百合⼥⼦⼤学『研究紀要』第57号 2021年)
  • 「ジャン=ジャック・ルソーのレトリック(3)『ダランベール氏への手紙』における保守派の論争(上)」(白百合女子大学『研究紀要』第58号 2022年)
  • 「ジャン=ジャック・ルソーのレトリック(4)『ダランベール氏への手紙』における保守派の論争(中)」(白百合女子大学『研究紀要』第59号 2023年)
  • 「よく読むためのレトリック:文彩の説得機能」(白百合女子大学言語・文学センター『言語・文学研究論集』第24号 2024年)

Les images de soi chez Jean-Jacques Rousseau : l’autobiographie comme politique, Classique Garnier
経歴
■経歴
上智大学外国語学部フランス語学科卒
東京都立大学院にて修士号(文学)取得
グルノーブル・スタンダール第三大学にて博士号(文学)取得
首都大学東京での非常勤講師を経て現職

■所属学会
日本フランス語フランス文学会
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