学びの内容

児童文化学科  2020年度卒業論文紹介 Part1

2021年7月9日

大学案内にも載っている2020年度卒業論文の中から、ひとつ紹介いたします。
ファンタジー研究第一人者の井辻朱美先生による紹介と評価です。ぜひお読みください。

「日本のタイムスリップアニメーションにみられる少年少女の成長過程の分析
  —『時をかける少女』と『君の名は。』—」

2006年の「時をかける少女」(細田守監督)と、2016年の「君の名は。」(新海誠監督)の二つのアニメを比較しながら、思春期の少年少女の心情が、タイムファンタジーという形をとることで、はっきりと浮き彫りにされていることを明らかにする、それとともに背景や電子アイテムに時代の流れを見る、という論文です。

前者はたまたまタイムリープの能力を手に入れた(活発な体育会系)少女が、何度も同じ時間のループを繰り返すなかで、過去を書き直し、未来人の少年への恋を初めて自覚し、最後に「彼に会いに行こう」と決意しなおすものであり、後者はある地方の名産の糸の力で、少年と少女の身体が眠るたび入れ替わってしまう事態に遭遇したふたりが、おたがいを知り、相手の携帯にその日の出来事を書き記すことで、通じ合ってゆきます。しかし、少女のいる地方が彗星落下で3年前に滅びてしまったことを知り、少年がその時間枠から彼女を救いに行こうとするもの。(前者は未来へ向かう旅で終わりますが、後者は過去へ向かう旅である、というところにもタイムファンタジーのせつなさがあります)

思春期の心情として、「異性への目覚め」のほかに、死生を体感する「異界体験」が重要な役割を果たすという論(茂木、岩宮)を検証してゆくというのが中心の問題意識です。

日本のタイムスリップ作品の年表に続いて、精密なタイムライン表を作っての比較とともに十年のあいだの携帯やスマホといったアイテムの進化や変化、また街のようす(坂道や踏切、自転車の風景、空間の大きさ)を比較した面白さ。

「時をかける少女」の「くるみ型タイムマシン」に対する「チャージ」というアイデアは、当時SUICAが発売されたことを踏まえているとか、携帯を通じてのみ相手を知ることができる状況とは、平安時代の歌のやりとりの間接的な状況と似ている、またリア垢、オタ垢、鍵垢など複数のアカウント(別垢)を持つSNSの状況は、多元的な自分、性差にも限定されない自分をかかえるようになった現代をあらわしている、などの洞察がこの世代ならではの論文の冴えです。 


    Page Top