学びの内容

ムロキ ヒデユキ

室城 秀之 教授

専門分野

『うつほ物語』『源氏物語』など、平安時代の物語文学を中心に研究しています。また、鎌倉時代や江戸時代に作られた擬古物語にも興味をもっています。

自己紹介・学生へのメッセージ

大学生の時、仲間と春山の登山をしました。冬山とは違い、それなりにのどかな山登りだったのですが、まだ山一面が雪で覆われていて、夏に登った時とは道がまったく違い、ただひたすら雪に覆われた山頂を目指して、ほぼ一直線に雪の中を歩いていました。雪に足をとられて歩くのはその時が初めての経験で、歩きにくくふだんの山歩きの何倍も疲れました。
まだ山頂までかなりな距離がある時、もういい加減歩くのが嫌になって、このまま下りてしまいたくなって雪の中にすわりこんだ時、麓から自分が歩いて登って来た足跡が、今自分がすわりこんでいる場所までずっと、雪の上に点々と続いているのを見て、ひどく感動したのを、今でもおぼえています。僕は、あの道を歩いて来たんだ。そして、今、自分がここにいる。この自分の足跡に責任をもたなくては、今まで自分が苦労して来たことはどうなるのか。歩き続けなければ。自分で自分を励ましながら、やっと山頂にたどり着きました。
自分の回りには、自分よりすぐれた人たちばかりいる、そんな思いがすることがよくあります。そんななかで、あせらず、結局自分でできることしかできないのだと思って、自分が今できることを精一杯誠実に努力することが大切だと思います。どんなにゆっくりした歩き方でも、今の自分は、歩き始めた時からずっと続く足跡の上に立っているのです。
自分の人生は、人によって左右されるのではなく、自分自身の努力で切り拓くしかないし、たとえ自己満足であっても、人との比較ではなく、自分自身で満足できればそれでいいと思います。そのために、一歩一歩自分の足で歩いてゆくことが大切だと、この歳になって、改めて感じています。

国語国文学科では、一年生のオリエンテーション・キャンプで、河口湖に行っています。その際、中央高速道をバスで行きます。ある時、道端にある看板に、区や市などの名前とともに、絵が描かれていることに気づきました。中央高速道は何度も通っていたのですが、それまでは外の風景を見ていてもまったく気になりませんでした。その気になって見ていると、どうも、区や市などの境界に、その区や市などを象徴するものが絵として描かれているようです。白百合女子大学のある調布市は神代植物公園のバラ、日野市は多摩動物公園のライオンの絵が描かれていました。この区や市などを代表するものはこれなのかと思いながらその絵を見ていました。なかには、なぜこの絵なのだろうかと疑問に思うものもありました。世田谷区の絵は、シラサギの花でした。私は、子どもの頃世田谷区民だった時があるのですが、区を代表するのがシラサギの花だとは知りませんでした。気になるとそのままではいられないので、東京に戻ってから調べました。昭和43年に区民の公募によって区の花として定められたということです。その背景にはさまざまな伝説があるようですが、戦国時代に、常盤姫という姫君が白鷺に姿を変えて両親のもとに飛んで行く途中で力尽きて地に落ち、サギの花になったということのようです。本学の池のまわりにも、初夏になるとサギの花が咲き乱れます。この話を知ってから、見馴れていたサギの花も、これまでと違った目で見るようになりました。

いつも見ている風景も、ある問題意識をもって見ると、それまでは気づかなかったことが見えてきます。文学作品や言葉でも同じことだと思います。何度も読んでいる作品でも、普段なにげなく使っている言葉でも、ある時、何かの問題意識をもって読んだり考えたりすると、それまで気づかなにかったことが見えてくる。それを、なぜなのだろう、どうしてなのだろうと考えることから、研究が始まります。いくら考えても調べても、必ずしも結論が得られるとは限りません。でも、真摯に考えたり調べたりしたという体験が貴重な財産になるはずです。

みなさんがこれから学ぶ学問は、試験問題のように初めから想定された〈正しい〉答えがあるかどうかはわかりません。むしろ、〈正しい〉答えなどない世界に、自分なりの答えを探し求めてゆくことになります。好奇心を持ち、自分の頭で考え、自分の手で調べ、自分の言葉で表現する。それが、これからみなさんが求められる力なのです。私たち教員も、みなさんに〈正しい〉答えを教えるのではなく、みなさんがもった問題意識を一緒に考えてゆきたいと考えています。

担当科目
■国語国文学科
テーマ別研究 Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ
国語科教育法ⅠB・Ⅱ
国語科教育法特講B
教職実践演習(中・高)

■大学院 国語国文学専攻
古代文学演習B
修士論文指導
研究指導

■大学院 言語・文学専攻(博士)
研究指導

担当科目の内容
■国語国文学科
◇基礎演習(古典)I,II◇
一年生の基礎演習(古典)では、前期と後期に分けて、少し違う内容の授業をしています。
前期は、古典文学を読むための基礎知識の再確認を行い、さらに、古典文学の研究法を学びます。基礎知識の再確認では、なぜ、古典には係り結びがあったのか、また、係り結びを正しく理解することによって、古文がどんなふうに読めるのかなど、古典文学を正しく読むために必要な知識を、具体的な作品を読みながら、しっかり身につけることを目指しています。古典文学の研究法では、文献の調査の方法などについて学びます。
また、後期は、作品のなかのことばなどを索引を使って、その作品のなかでそのことばがどのように使われているのかを調べて発表する授業を行っています。たとえば、『源氏物語』のなかには、車はどんな種類のものがあるか、それがどんな場面で、どのように使われているかなどを調査して発表することで、作品の理解を深めます。自分の意見を、自分のことばで、相手が理解しやすいように工夫して発表する力を身につけます。 できるだけ、楽しい授業になるように努めています。

■大学院指導内容
『うつほ物語』『源氏物語』などの研究はもちろんですが、現在は、本学の図書館に、江戸時代の女流作家荒木田麗女の擬古物語の写本が多く残されているので、それを読みながら、荒木田麗女における平安文学の物語の影響について、研究しています。
業績
■研究書
『うつほ物語 全』[単著](1995年10月 おうふう)
中世王朝物語全集11『雫ににごる・住吉物語』[共著](1995年10月 笠間書院)
『うつほ物語の表現と論理』(1996年12月 若草書房)
和歌文学大系『小町集・業平集・遍昭集・素性集・猿丸集』[共著]
(1998年10月 明治書院)
『源氏物語必携事典』[共著](1998年12月 角川書店)
『うつほ物語の総合研究1 本文編・索引編』全5巻[共著](1999年2月 勉誠出版)
『うつほ物語の総合研究2 古注釈編』[共著](2002年2月 勉誠出版)
『新版 落窪物語 上・下』[単著](2004年2月 角川書店)
『うつほ物語』(ビギナーズ・クラシックス)[単著](2007年6月 角川書店)
『源氏物語入門』[共著](2008年7月 角川書店)
『源氏物語大辞典』[共著](2011年2月 角川書店)
『世界一わかりすぎる源氏物語』[共著](2011年9月 角川書店)

■文部省検定済教科書の編集
『国語 I 』『国語 II 』『古典 I 』『古典 II 』『新編国語 I 』『新編国語 II 』、『国語総合』『新国語総合』『徒然草 枕草子 説話』『古典名文選』『古典』『精選古典』(いずれも教育出版)

■高校生用の辞書の執筆・編集
『角川必携古語辞典』(1997年11月 角川書店)の項目執筆
『詳説古語辞典』(2000年1月 三省堂)の項目執筆
『角川全訳古語辞典』(2002年10月 角川書店)の編集および項目執筆
経歴
■経歴
昭和52年(1977)3月 東京大学文学部国語国文学科卒業
昭和59年(1984)3月 東京大学大学院人文科学研究科博士課程(国文学専攻)単位修得終了
昭和59年(1984)4月 白百合女子大学文学部国文学科専任講師
昭和62年(1987)4月 同 助教授
平成7年(1995)4月  同 教授
平成9年(1997)9月  博士(文学)の学位取得(東京大学大学院人文社会系研究科)

■所属学会
中古文学会
全国大学国語国文学会
日本文学協会
物語研究会
和歌文学会
和漢比較文学会
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