学びの内容

ナギハシ タダヒロ

名木橋  忠大 准教授

専門分野

日本近現代文学、特に詩について研究しています。

自己紹介・学生へのメッセージ

 立原道造という詩人の作品に関心があります。「或る晴れた日に」という詩から引用してみましょう。

  私は黒い旗のやうに
  過ぎて去る 古いおもひに ふるへながら
  光や 風や 水たちが 陽気にきらめきさわぐのを
  とほく ながめてゐる……別れに先立つて (第2連)

 2行目まで読んでいくと、「私」が昔のことを思い出して震えながら、黒い旗のやうに過ぎて去ると意味がとれます。旗が強い風に波打つように「私」は無力に吹き流されて行く、そんなイメージです。ところが最後まで読み進めれば、「古いおもひに ふるへながら」は4行目の「ながめてゐる」に掛かっていくように感じられてきます。つまりこの一節は、「私」は「黒い旗のやうに 過ぎて去る 古いおもひに ふるへながら」、「光や 風や 水たちが 陽気にきらめきさわぐのを」「とほく ながめてゐる」という意味だったわけです。読者の脳内には、「私」が「黒い旗のやうに」「過ぎて去る」映像が浮かぶや、次の瞬間「過ぎて去る」動作は残像となって霧散し、「私」は未だそこにたたずんで風景を眺めている様子が浮かんできます。この一連の表現では、「過ぎて去る」が述語動詞でありながら修飾語句としても機能することで、映像におけるオーバーラップに似た効果が生じていると言えるでしょう。
 通常、言葉は情報伝達が第一義で、そのために内容を分かりやすく効率よく表現することが求められます。しかし文学作品では言葉の振る舞い自体に重点が置かれる場合が非常に多いのです。現代文学のシーンではさらにラディカルな表現が生み出され続けています。文学作品が放つ言葉のパフォーマンスの魅力はつきません。
担当科目
■国語国文学科
基礎演習(近代)Ⅰ、Ⅱ
文学史(近代)
テーマ別研究Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ
卒業論文

■大学院 国語国文学専攻
近代文学演習A
担当科目の内容
■国語国文学科
◇基礎演習(近代)Ⅰ、Ⅱ◇
 近現代文学の代表的作品を取り上げ、1作品につき1~2名の担当者を割り当てます。「読む」「考える」「調べる」「発表する」「討論する」ことを通して履修者各自が作品に能動的に向き合い、近現代文学研究の基礎を学んでいきます。

◇文学史(近代)◇
 一つの表現は、前代の表現へのアンチとして現れる場合が多いようです。文学史とは作品が出現した必然と、なおかつその作品が有する独自が入り組んだ壮大な織物です。本講義では表現論的関心の下に近代の小説史を概観していきます。

◇テーマ別研究Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ◇
 自分の興味・関心によって選択したテーマを深く掘り下げていく専門性の高い演習科目です。卒業論文を意識し、各自の研究テーマを論文執筆の段階にまで高めて行けるようになることを目標とします。

◇卒業論文◇
 受講者それぞれの研究テーマを卒業論文の形にまとめていきます。受講者は自身の論文の進捗状況を報告し、教員は論文完成のための助言や、論文の添削を行います。

■大学院 国語国文学専攻
◇近代文学演習A◇
 中原中也の作品を用いて詩の研究方法を修得します。内容分析にとどまらず、同時代の詩、小説、評論、芸術思想、政治思想、社会状況などを投影することで読解を深めていきます。
業績
  • 『都市モダニズム詩誌26 神戸のモダニズムⅠ』(ゆまに書房 2013・4)
  • 『立原道造新論』(新典社 2013・11)
  • 『〈異郷〉としての大連・上海・台北』(共著 勉誠出版 2015・3)
  • 『立原道造 受容と継承』(七月社 2020・6)
経歴
早稲田大学第二文学部日本文学専修卒業。
東京大学大学院人文社会系研究科修士課程修了。修士(文学)
同 博士課程修了。博士(文学)
中央大学文学部特任准教授、特任教授を経て現職。
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