白百合について

学長室の窓から No.39

2022年11月9日

大学で学ぶということ
 

白百合女子大学
副学長 海老根龍介

 久しぶりに対面で実施した白百合祭も終わり、少し肌寒い空気を感じながら構内を歩いていると、色づき始めた木々が目を楽しませてくれます。とはいえ、4年生や修士課程・博士課程(前期)の2年生は論文の提出期限も近づき、迫りくるプレッシャーに心穏やかではいられないかもしれません。卒業論文が必修でない学科もありますが、論文を書かなくてもゼミ等での発表やレポート執筆などをとおして研究成果をまとめることに変わりはなく、いよいよ大学での学びの集大成の時期です。

 白百合女子大学には2学部6学科があり、学生たちの目的はさまざまです。発達心理学科や初等教育学科で将来の目標に直結する知識とスキルを獲得したいと努力を重ねている学生もいれば、本学ならではの学びを提供する児童文化学科で、趣味で楽しむしかないと思っていた事柄を専門的に研究できる喜びに、日々目を輝かせている学生もいます。小さいころから本を読むのが好きだったり、最近ではゲームやアニメをとおして作家たちに関心を持ち、文学部で文字通りの文学研究に没頭している学生もいるでしょうし、同じ文学部でも、外国語を学び、また外国語で学ぶことで、広い世界で活躍する素地を作ったり、外国の文化や生活を知り、自文化を見直し相対化するなかから、将来のさまざまな可能性を探っている学生もいるでしょう。やりたいこと・興味のあることを、思う存分追求するのは、大学での学びの原点であり醍醐味です。
 学部により、学科により、さらには所属するゼミにより、履修する科目により、学ぶ内容は当然のことながら異なりますし、その違いこそが大学が提供する知識やスキルの専門性の根幹を成し、学生一人ひとりの個性を形作るのは間違いありません。しかし与えられたことを受動的に吸収するだけでなく、自分の力で調べ、考え、まとめるという主体的な学びをとおして身につく共通の力もあります。それはたとえば、問いを発見する力であり、複数の資料やデータを客観的に検討する力であり、分かることと分からないことを仕分ける力であり、分かることを論理的にまとめる力であり、人にそれを説得的に説明する力です。ある問いは本当に問いとして成立するのか、使っている資料やデータは本当に信頼に足るものなのか、その読み方・使い方は本当に正しいのか、問いへの答えを提示しているけれど本当にそこまでのことがいえるのか。自分なりの考えを持つ重要性は、教育をめぐる議論においてよく指摘されますが、大学での学習で求められるのは、単に自分の考えを持つにとどまらず、その考えに客観性や検証可能性、説得力を持たせることにあり、それを学生の皆さんは入学直後から繰り返し聞かされているはずです。この力は大学の中だけでなく、どのような仕事に就くにせよ、社会の一員として働くうえで、さらには一市民としてさまざまな判断や行動をするうえで不可欠なのですが、それがどういうものか、実感をもって理解するのは実は大変に難しい。教員や仲間たちに考えを聞いてもらい、根拠や推論に関して寄せられた疑問に答え、ときに反論し、指摘を受け止めて改善する作業を繰り返しながら、時間をかけて、いわば身体で覚えていく必要があるからです。

 どのような立場で社会に関わるのであれ、普遍的に求められる汎用的能力は「ジェネリック・スキル」とも呼ばれ、学部や学科での専門的学習よりも、むしろ全学共通の学びと結びつけて論じられることが多い概念です。実際、1年次に必修として学ぶ「パブリック・リテラシー」と「情報リテラシー」でその素地を育むのは非常に大切ですし、部活動やサークル活動など正課外の活動でも、チームワークやリーダーシップを鍛えることができるでしょう。より直接的に卒業後の進路を考えるために「キャリア研究」という必修科目が設置され、さらに学生全員が職員と個別面談を行うことで、実社会で必要とされる能力を理解し、一人ひとりの資質・生き方・考え方を明確にしながら、社会との関わり方をじっくりと探っていきます。そしてその基盤には、「人間一人ひとりをかけがいのない存在として大切に思い、自ら進んで他者に仕え、社会に貢献しようとする心の育成」という、白百合女子大学が開学以来育ててきた教育理念があり、「キリスト教学」をはじめとするいくつかの科目で、その内実を学ぶのです。他方、「グローバルビジネス・プログラム」や、2022年度からはじまった「数理・データサイエンス・AI教育プログラム」、リニューアルして2023年度から全学に開かれる「ホスピタリティ・マネジメント・プログラム」など、汎用的な知識・スキルにより実践的な肉付けをするキャリアデザイン型プログラムを充実させ、中高教職や日本語教育、児童英語教育、心理専門職といった資格の取得においてもきめ細かく着実なサポートを行うべく、大学としての体制の見直しも不断に行っています。
 ただ大学での学びは、個別断片的な寄せ集めではないのです。全学部学科の学生が1・2年生で学ぶ共通必修科目の基礎があることで、高度な専門の学習もジェネリック・スキルのさらなる強化の機会となるのですし、逆にジェネリック・スキルの育成と結びつくことで、専門領域の知識やスキルは学生個々人の血肉となります。具体的なキャリア形成の努力、そのためのさまざまなプログラムや資格課程の履修も、汎用的なたしかなスキルの裏付けがなければ、成果を社会に還元できませんし、専門知識と組み合わさればより強力な力を発揮するはずです。あれを学んだ、これを学んだと箇条書き的に数え上げるのではなく、互いに結びつき補完あるいは強化しあって、白百合女子大学での学びの全体が、皆さんが将来に羽ばたく基盤を形成することを、どうか忘れないでほしいと思います。
 そのようなわけで、これからの時期、とくに最終学年の皆さんが、それぞれの専門領域での集大成に真摯に取り組むことは、入学してからこれまでに得たすべての学びを相互に結びつけ、価値ある成果とするための総仕上げの作業でもあります。論文執筆やゼミ等での発表、レポート執筆などをとおして「主体的な学び」に十分な時間と労力を傾け、その楽しさと難しさを、理屈ではなく実感として、ぜひ理解して巣立っていただきたいと願ってやみません。深まる秋の景色にときどき目と心を休めながら、仲間とともに、教職員とともに、学生としての残された時間、学ぶことの楽しさと、そして時には苦しさを存分に味わってください。


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