白百合について

学長室の窓から No.11

2020年10月13日

楽しい・おもしろいと感じることを


白百合女子大学
  副学長 宮本 信也

 新型コロナウイルスの感染は、終息まではまだしばらくかかりそうな状況です。それでも、私たちが感じる不安は、今年の春に比べると小さくなってきているように思われます。
 今年の春、このウイルスがどんなものなのか、どこから感染するのか、感染したらどうなるのか、感染予防のためには何をしたらよいのかなど、よく分からないことが多く、それが私たちの不安を大きくしていました。
 今、新型コロナウイルスの性質、主な感染経路、感染後の経過、感染防止の方法についてなど、このウイルスについてのいろいろなことが分かってきました。正しい知識は、不安を軽くしてくれます。また、経済活動の回復を目指した政府の各種活動もあり、現在、私たちの不安が小さくなってきているものと思われます。とはいえ、前にもお伝えしましたように、新型コロナウイルス感染を安易に軽く見ることなく、正しい知識のもとに適切な行動を行うことを忘れてはいけないでしょう。

 不安を話題にしました関係で、ちょっと目先を変えて、不安について少し触れさせていただこうと思います。
 不安は、気持ちが落ち着かない恐れの感情のことをいいます。不安には、誰にでも生じることのあるものと、精神症状として考えられるものがあります。
 誰でも感じる不安とは、心身の安全が脅かされたときや自信が持てない課題(例えば、発表会や試験など)や初めての体験に直面するときなどに生じるものです。
 一方、精神症状としての不安(病的不安)は、さらにいくつかのタイプがあります。1つは、病的不安の代表的なもので、何が心配で怖いのか自分でもよく分からない漠然とした恐怖の感情です。精神医学的には『対象のない恐れの感情』といわれます。2つ目は、犬が怖いとか高い場所が怖いなどの特定の事柄に対する恐れの感情のことで、恐怖と呼ばれるものです。3つ目は、突然に生じる強い不安状態でパニック(恐慌)と呼ばれます。なお、病的不安と判断するためには、単にこうした状態像だけでは不十分で、その不安のためにその人の日常生活や社会生活に著しい支障(例えば、学校や会社に行けないなど)を来しており、その不安と支障を本人が持続的に苦痛に感じていることも条件となります。したがって、前述した誰にでも起こる状況下での不安であっても、そのために日常生活・社会生活に破綻を来しているときには、それは病的な不安と考えられ、治療の対象となることになります。
 不安は感情症状ですが、不安を感じているときに胸がどきどきすることは誰でも経験することがあるように、身体症状を伴うことが多いという特徴があります。身体症状としては、動悸、息苦しさ、胸が締め付けられるような痛み、めまいなど、いわゆる自律神経症状といわれるものが見られます。自律神経とは、主として内臓や血管の働きを調節している神経のことで、自分で意識的にコントロールできず、自動的に働いているため「自律」神経といわれています。この自律神経の活動が過剰になったり不安定になったりしたときに出現する身体症状を自律神経症状と呼びます。
 ところで、不安に伴うこうした自律神経症状は、そのこと自体が、さらに不安を高める傾向があります。そして、そうして強くなった不安感情が、また、自律神経症状を引き起こすという悪循環が起こすことがあると考えられています。不安症状は、このように身体症状と関連性が強いという特徴があります。そして、不安だから動悸がするだけではなく、動悸がすると不安を感じるというような逆の経過もあると考えられるようになってきています。このことは、不安という症状は、緊張するなどの自律神経が興奮するような環境の体験により条件付けられて学習されていくこともある、ということを意味します。

  不安は学習されるという特徴があることから、不安を感じることを繰り返すほど、不安を感じやすくなる、不安が強くなる、という状況が生じる可能性が考えられます。ハッピーエンドのドラマや映画を観たり、好きな歌を自分の部屋で一人で大きな声で歌ってみたり、ストレッチやヨガをやってみたりなど、楽しいことやおもしろいと感じることをあれこれやってみたり、考えたりするように心がけると、不安を感じることが少なくなると思います。

  

閑話
この写真は、キヌガサソウ(衣笠草)です。この花の学名は、Kinugasa japonicaまたはParis japonicaといいます。どちらも「japonica」が付いていることから分かりますように、この花は日本の固有種です。古代、日本の偉い人に後ろからさしかけた傘を衣笠と言いますが、この花の葉が放射状に広がっている様子がその衣笠に似ているということで、この名前になったと言われています。わりと目立つ花ですから、山で出会うとすぐに分かると思います。因みに、この写真は黒姫山で撮ったものです。




                          
             
  

Page Top