解題の解説

中京大学文学部准教授:浅岡邦雄氏編

《凡 例》本編は、白百合女子大学図書館が所蔵する貴重書のうち、明治初期に刊行されたものの解題である。 配列は分類番号順とし、同一のものは刊行年月の順とした。記述は以下の順に従う(記述を欠くものもあり)。 書名、書名読み、請求記号、著訳編者名、刊年(月)、出版者、巻冊(丁・頁)、印刷・製本、大きさ、表紙、見返し、印記、解説等。 角書きと本書名の間には・(中グロ)を入れた。


【文明論之概略(ぶんめいろんのがいりゃく)】(請求記号304/F85/1〜6)
福沢諭吉著、明治8年、福沢蔵版、全6巻6冊、整版・和装、22.8×15.8cm。表紙は濃藍色の地に網目模様、左肩に題箋「福沢諭吉 文明論之概略 巻之一(〜巻之六)」、見返しは黄色和紙を三ツ割「福沢諭吉著/文明論之概略 全六冊/明治八年四月十九日許可 著者蔵版」とし、左下に「福沢氏蔵版印」の方形朱印を捺す。各冊に「武田猛夫」の印記あり。

解説)西洋文明の大要を記して、この文明に向かって進むことが日本の独立・発展する所以であることを説いたもので、福沢の著書中で最も学問的体裁の整った著書とされる。本文は、漢字カタカナまじりの肉太の彫り方で、巻之六末尾に「彫工 佐脇金次郎 江川八左衛門」とある。ともに著名な彫師である。本書は明治期の三大ベストセラーのひとつであり、何度も刷りを重ねた。その後、明治10年に活版・洋装、黒クロース背革装の1冊本を刊行、この活字本も重版を重ねた。本学所蔵本のうち、巻之一裏表紙見返しに「中野庄吉」の墨書と捺印が、巻之三以降には「岡山県一貧生武田猛夫私有物」の墨書がみられる。もって当時書生たちの愛読書であったことが窺える。

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