学長室の窓から No.7
2020年7月7日
教育の原点
白百合女子大学
学長 髙山 貞美
7月に入り、前期の授業も終盤を迎えます。学生のみなさんは、遠隔授業と課題提出に時間がかかり、疲れが溜まっているころではないでしょうか。長丁場ですから、リラックスして過ごす時間をとるようにしてくださいね。
今回は、私の人生に大きな影響を与えた恩師を紹介します。イエズス会のヨゼフ・ピタウ神父様(1928—2014)です。1990年代の後半に、私がローマのグレゴリアン大学博士課程で学んでいたころの学長です。ピタウ先生は、60年代から80年代にかけて上智大学長や上智学院理事長を歴任されました。留学時代に私がスランプに陥り、行くべき方向を見失った時に優しく励ましてくださいました。その時のアドバイスは、私が願っていたものとは違っていたのですが、不思議なことにそれがその後の私の現在に至る道を指し示すことになったのです。
ところで、ピタウ先生はサルデーニャ島の出身で、のどかな農場で大家族(祖父母・父母・7人兄弟)の中で育ったそうです。3歳のころの出来事です。ある日曜の午後、従兄(いとこ)に馬に乗せて遊んでもらっていたところ、近くで犬が吠えたため、馬がびっくりして走り出し振り落とされてしまいます。その時の様子です。
みんなが一斉に走り寄って来て、地面に倒れていた私を抱き上げ、大きなテーブルの上に寝かせてくれました。みんなが心配そうに私をのぞき込みました。とりわけ母と父は、涙を流さんばかり。その様子を見て私は、幼心にも、みんなから本当に大切にされていると感じました。(ヨゼフ・ピタウ『愛ある生き方』海竜社)
このような実体験から、ピタウ先生は、「教育の出発点は、自分が周囲から大切にされているという意識をおこさせることだ」と述べています。人は深く愛されてこそ、人を愛する心が生まれ、自己肯定感が育まれます。ピタウ先生のように、大家族でなくても落馬しなくても、誰か一人の人に深く愛され、まるごと大切にされているなら、人は前向きに人生を歩んでいけるのではないでしょうか。