白百合について

学長室の窓から No.9

2020年8月6日

徒然草・遠隔授業・授業評価


白百合女子大学
  副学長 伊東玉美

前回『徒然草』の演習でのユニークなリアクションペーパーのお話をしましたが、同じ『徒然草』の、三八段「名利に使はれて」で兼好は、こんな発言をしています。

  伝へて聞き、学びて知るはまことの智にあらず。

人から教えてもらい、習熟するのは、本当の知性と言えない、というのです。とはいえ、これに対する反論は比較的簡単ですね。自分一人の限られた価値観を深めていくだけでは人は成長できない。それは古典文学の言葉でいう「無智」という状態です。知らなかった方法や考え方を人から教えてもらい、それを踏まえたり壊したりしながら、新たなものを作り出してきたのが、人類の学問や芸術の歴史なのですから。

兼好がここで言っていることは、遠隔授業を運営していく時の課題と、いくつかの角度で本質的に関連する部分があると思います。90分間教室で受講しているだけで、毎週目に見えて一定程度の「体得」と「経験」を積み重ねられる対面授業と違い、遠隔授業の場合、例えばある課題についていついつまでにレポートを出しなさい、という課題を、毎週課された場合、発問がすぐれていれば、たしかに自ら深め、考える習慣は身につくでしょうが、兼好が言っていた「伝へて聞き、学びて知る」学習は、達成しにくいでしょう。

そもそも大学の遠隔授業は、文科省のルール「多様なメディアを高度に利用して、文字、音声、制止画、動画等の多様な情報を一体的に扱うもの…」に基づいて展開されます。「高度に利用」するとは、なるべく新しく、多様なメディアを毎時間使わねばならない、と言っているのではなく、例えば第一人者のお話だからといって、毎時間毎時間、ノーベル賞受賞者が話しているTV番組の録画を授業中ただ流し、それについての感想を書きなさい、といった授業では困りますよ、といったことを念頭に置いていると思われます。こういう形式であれば、その録画を流す前後に、教員が、あるテーマで十分前振りなりフォローなりをしないといけません。さもないと、すぐれたTV番組を単純に綴り合わせるだけで、大学の授業が成立してしまうことになります。

また、教員同士が経験や智恵を「伝へて聞き、学びて知」り、授業改善していくのは、教員の務めです。しかし、授業を磨く努力は、それだけでは決定的に不足で、お客様である学生の皆さんからの声を、どんどん反映していかねばなりません。私たちが教育サービスを提供する職業に就いている限り、お客様の声に対応する努力を怠ることはできません。特に、今のような新たな状況下にあって、それぞれの授業を、学生がどのようにとらえているのかを知ることは、責任ある授業展開を保証するための、我々教員の責務です。

前期の授業アンケートは、遠隔授業そのものを無事受講できているかどうかを、全学的に、一刻も早く掌握することに焦点を絞って実施し、幸い、遠隔授業のスタイルに、一定程度の満足や手応えを得ているらしい結果を得ることができました。通信環境についてほぼ確保された今、望まれているのは、よりいっそう多くの学生が共感できる質の高い授業の実施です。次に行うアンケートでは、回答の回収方法を工夫した上で、例年通りの、各授業に対する評価を行い、よりよい遠隔授業・対面授業を行うために大学として活用し、ストックしていかねばなりません。全学アンケートを企画実施するFD推進委員会には、今からご準備頂き、先生方また学生の皆様には、そういった主旨をご理解頂いた上で、ご協力願えればと思います。

新型コロナウイルス感染症の蔓延という巨大な変化の最中にあって、白百合女子大学は、学生の皆さんと教職員との協働で、全体としては充実した遠隔授業を行えているものと感じています。しかし、一つ一つを細かく見ていけば、様々なレベルの改善の余地が当然あるでしょう。そういうきめ細かな対応を怠らない不断の努力こそが、白百合女子大学らしさであると考えます。今後共皆様のお力添えをお願い致します。





                          
             
  

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