白百合について

学長室の窓から No.14を掲載しました

2020年11月25日

ワクチン有効率90%:ワクチン接種で10人に9人は感染しない?


白百合女子大学
副学長 宮本 信也

『学長室の窓から』で私の担当のとき、「新型コロナウイルスの感染は、終息まではまだしばらくかかりそうな状況です。それでも、私たちが感じる不安は、今年の春に比べると小さくなってきているように思われます。」と書いたのは10月半ばのことでした。それから1か月、今、私たちは感染状況の増大のもと、再び不安の中にいます。100人、200人の感染者数では驚くこともなくなり、数十人規模の感染者数で心配していた春の頃が今では遠い昔のように感じられるほどです。

 でも、一方で、新型コロナウイルスのワクチン開発が進んでいるとの報道が聞こえてきています。11月下旬時点で報道されているワクチンの有効率は7095%と幅はありますが、かなり高い値となっています。ところで、ワクチンの有効率の数字の意味はご存じでしょうか。例えば、あるワクチンの有効率が90%と報道されたとします。90%という数字から、ワクチンを接種すると10人中9人は感染しないと思われがちですが、その推定は、残念ながら正しくありません。

 現在、報道されている「有効率」は、英語ではvaccine efficacyと呼ばれるもので、次の式で計算されます。

 (1-接種者の発症率(a)/非接種者の発症率(b)×100

ワクチンの有効性と安全性を検討する治験では、ワクチンを接種する群(接種群)とプラセボ(偽薬、ワクチン成分を含まない無害のもの、例えば生理食塩水など)を接種する群(非接種群)の2群にそれぞれ同じ人数の被験者(通常は志願したボランティア)を割り当て、接種後の発症の有無と副作用などの有害事象の有無の検討を行います。実際には、2群が全く同じ人数になることはありませんが、ほぼ同じ人数であれば問題ありません。接種群と非接種群の人数が同じ場合、このワクチンの有効率が90%と計算されるのは、接種群で発症した人数が非接種群で発症した人数の1/10(あるいは非接種群の発症人数が接種群の発症人数の10倍)のときとなります。発症率は、その群の全体の人数で発症した人数を割ることで計算されます。2群の人数が同じ場合、有病率を計算する式の中で発症率を計算する分母の値が同じになりますので、発症率を計算しないで発症した人数を式に当てはめるだけでよいことになります。具体例で考えるとすぐに分かります。例えば、接種群1万人、非接種群1万人だったとします。このとき、接種群の発症人数が10人、非接種群の発症人数がその10倍の100人のとき、以下の式となり、有効率が90%となります。

 (110a)/100b))×10090(%)

仮に、90%という数字から、接種群の90%が発症しない、発症するのはその10%と考えてしまいますと、接種群の発症人数は1万人の10%で千人となり、90%の有効率となるためには、非接種群の発症人数がその10倍の1万人でないといけなくなります。1万人という人数は、非接種群の全人数となり、これが非現実的であることはすぐに分かると思います。私たちは、もともとウイルスなどに対するある程度の抵抗力(免疫力)を持っており、ワクチンを接種しなくても感染しない人は必ずいるからです。そうでないと、ワクチンを接種しなければ、必ず感染するという理屈になってしまいます。

 ということで、ワクチンの有効率というのは、ワクチンを接種しなければ発症した人の何%を予防できたかという仮定の数字のことになります。上述の例でいえば、ワクチン接種をしなければ100人が感染したと推定されるが、接種によりそのうちの90人、つまり90%が予防できた、となる訳です。ですから、ワクチンにより、何人の人が予防できるかは、ワクチンを接種しない場合にどれくらいの人が感染するかで決まることになります。ワクチンを接種しなくても感染しない人がいることを考えますと、90%の有効率は、ワクチンによりその集団の中で感染する人は10%よりも遙かに少なくなることを意味していることになります。現在、日本で実施されているワクチンの中で最も有効率が高いものの代表が麻疹ワクチンで、有効率は約95%といわれています。この有効率で、日本では、麻疹ワクチンを接種することで集団における流行をほぼ完全に防止することができています。このように考えますと、新型コロナウイルスのワクチンにはかなり期待できることが理解されると思います。

 ただし、新型コロナウイルスに対する抵抗力(免疫)は、一度、感染すれば二度と感染しないという終生免疫ではないことが分かってきています。現時点では、インフルエンザワクチンと同じように、毎年、流行期に接種することで一定の感染予防効果が期待できると考えられています。

  開発中のワクチンが完成し、世界中で接種されることで新型コロナウイルスの流行がある程度は落ち着く日が早く来て欲しいと願っています。

 

閑話
  今回の花は、ゼンテイカ(禅庭花)です。黄色の大ぶりの花で、目立ちやすい花です。ニッコウキスゲの別名もあり、こちらの名前で呼ばれることの方が多くなっています。日光の霧降高原に群生地があり、6月にはたくさんのニッコウキスゲを見ることができます。なお、この写真は日光ではなく、北海道のニセコアンヌプリ(ニセコにある山です。スキーで有名ですが、冬以外は登るのに手頃な低山です。)で撮影したものです。

   

 



                          
             
  

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