学長室の窓から No.21
2021年5月26日
皆さま、こんにちは。
本年度から副学長を務めることになりました小林明子です。どうぞ、よろしくお願いいたします。所属は文学部国語国文学科(教授)で、専門は日本近現代文学、作家としては島崎藤村を中心に周辺の作家の文学について研究しています。
4月に対面授業が再開され、学生の皆さんも教員も互いに顔を合わせる喜びのうちに新学期が始まりましたが、まもなく「まん延防止等重点措置」が適用され、さらに3度目の「緊急事態宣言」発出という事態となりました。現在、一部の授業は対面で実施しながら、大方は遠隔授業の形を継続しています。学生の皆さんが、ようやく授業やクラブ活動などを通して大学生活を満喫しようと期待し、意気込んでいらしたであろうことを思いますと、大変残念でなりません。感染拡大防止のための措置として、ご理解をいただきたくお願いいたします。
さて、今、大学キャンパスは、緑に溢れた清新な空気に包まれています。豊かな自然に溢れ、春夏秋冬それぞれの景色と、そこに醸し出される風情を楽しむことができるこのキャンパスは、本学の誇りの一つです。この環境に久しく身をおいていると、年度初めには季節は、変わらずにめぐってくるのだということを実感します。が、一方で、昨年から私たちの生活を含め周囲の状況が激変したことを思うと、状況といかに向き合うかについて、日々刻々と対応を迫られる、変化、変容する日々のなかに生きていることを痛感します。
先に申しましたが、私は島崎藤村という作家を中心に研究しています。藤村は明治5年に生まれ、昭和18年に亡くなりました。つまり明治以降、日本という国が世界の中で独立した国家として形作られていく道程をともに歩んだ人物です。その時間は、歴史的にみても激動の時代でした。そのようななかで、彼は生涯にわたって一貫して、ひたすらに物事を、そして人間を見続けました。その<見る>という行為をもっと厳密に表現するならば「凝視」という言葉が適切でしょう。そして作品を通して、決して声高にではないけれども、多くの重く、深い問題を発信していった姿勢に注目しています。作品では、登場人物たちの言動を通して近代化を目指しながらも、それとは逆行する日本社会の風土を描くなど、自らの意思とは関係なく、社会的、個人的苦難に満ちた状況のなかで生きる姿、そこでの葛藤や苦悩が描かれています。しかし、そのようななかでも、自らの人生を輝かせる視点をも忘れていません。今後は、彼の人生における幾つかのエピソードをご紹介しながら、今、この時代、この時を生きることの意味を考えてみたいと思っています。
どうぞ、よろしくお願いいたします。