白百合について

学長室の窓から No.24

2021年7月27日

本との出会い・再考 

白百合女子大学
副学長 小林 明子

梅雨が明けて、暑い夏が続いています。日本の季節ごとの風物詩というと、日常の場に、また非日常の場にもいろいろと思い浮かぶでしょう。それらは、四季のある日本では、その時季ごとに人々の心を反映し、癒やし、豊かにするものとして大切にされてきました。しかし、今もなお、4度目の緊急事態宣言が発出されるに至り、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が収まりません。変異株による感染に一層の注意が必要であることは、皆さんも十分にご承知のことと思います。補講期間が終わると、いよいよ夏期休暇となりますが、これまで通りに手指消毒の励行、マスクの着用、密を避けることを徹底してください。

不要不急の外出を避けることから、昨年来、「巣ごもり需要」という言葉が聞かれるようになりました。「巣ごもり」つまり自宅で過ごす時間が長くなり、それに伴って、人々が求めるもの、消費(需要)の様相が変わってきたのです。これは経済面では顕著な現象として現れ、行動様式、生活様式の変化は産業界におけるさまざまな分野で、商品開発などが盛んになっています。

一方で、こうした変化とは別に、静かに、しかし変わることなく継続していたのは本を求める人々の姿であったように思います。電子辞書は当たり前のものとなり、紙の本の需要は激減したとも言われて久しいことも関係するのかどうか、市中の書店のなかにも緊急事態宣言下で一時休業としたところもありました。書店の入り口に貼られた休業を知らせる掲示の前で、溜息をつく人、他に開いている書店がないかを探すのでしょうか、スマホを取り出す人、納得がいかないと母親に泣きつく幼子など、そうした光景を目にする度に、分かってはいたのですが、書店と人々とは実に密接な関係にあるのだと再認識しました。既に内容が分かっている本、必要に迫られて購入する本は、昨今便利なネットでの購入で用が済みます。が、書店で手にとってみて購入するかどうかを決める、といった行為には、本との出会い、作品との出会いの妙味が潜んでいるとも言えるでしょう。とはいえ手指消毒の徹底が必要ですから、以前のように書架のあちらこちらに手を伸ばすことも控えめになります。

そこで、夏期休暇を目前にして、それも外出、旅行もままならないなかで、あらためて本と向き合うことについて考えてみましょう。一年前の今頃とさほど変わらないとも言えますが、2度目の夏です。これまで夏休みの宿題として課された読書感想文を書き上げるために読んだ経験は、それこそ夏の風物詩の一つかもしれません。新しい本を探さずとも、例えば、これまで読んだ本を再度読んでみたり、購入したものの書棚に収まったままになって、忘れかけていた本を読んでみるということも、新たな本との出会いと言えるでしょう。人は限られた人生を生きていきますが、本を通して、そこに登場する人物とともに幾つもの人生を生きることができるとも考えられます。家に居ながらにして、幾人もの人々の人生に伴走することで、さまざまな出来事に遭遇し、経験を重ね、心はさまざまな経験を重ねていきます。ありきたりと言われれば、そうかもしれませんが、心の窓を開くこと、それによって物事を見る目に変化がおこることや、思いや考をめぐらすことへとつながるように思います。それは、いわゆる旅をすることと同じでしょう。旅は非日常の世界へ私たちを誘いますが、本を読むことも同じです。文字で表現された場面をイメージしながら読むことで、見えない部分にも思いを馳せることにもなります。

今年の夏は、どのような本に出会えるでしょうか。そして、出会うことができたでしょうか。秋の始まりとともに、再びお目にかかって語らうことが出来ますことを切に願っています。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        

                 



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