白百合について

学長室の窓から No.26

2021年10月14日

不安は学習されます

白百合女子大学
副学長 宮本 信也

新型コロナウィルス感染症の第5波がようやく下火となり、緊急事態宣言も解除となりました。後期開始当初、遠隔授業中心だった授業体制も対面授業を基本とする体制に戻りました。第5波は、感染力が強いデルタ株の流行でしたので、登校するのが不安な人もいるだろうと思います。コロナウイルス感染の報道や噂をいろいろ見聞きし、なんとなく不安を感じることは当然のことと理解します。ただ、これまでのところ、大学の授業中に感染したことが明らかな報告はありません。大学としては、一定の距離を取り、発話を控え、換気を行いながら、前期以上に感染予防対策に気を配っていきたいと思っています。

ところで、不安という言葉は、よく使われる用語ですが、そもそも不安とはどんなものなのでしょう。不安は、感情の問題であり、気持ちが落ち着かない恐れの感情のことをいいます。不安には、誰にでも生じる状態と考えられるものと、心の病気の症状として考えられるものがあります。

誰でも感じる不安とは、心身の安全が脅かされたときや自信が持てない課題(例えば、発表会や試験など)や初めての体験に直面するときなどに生じるものです。

一方、心の病気の症状としての不安(病的不安)には、さらにいくつかのタイプがあります。1つは、何が心配で怖いのか自分でもよく分からない漠然とした恐怖の感情です。精神医学的には『対象のない恐れの感情』といわれます。2つ目は、犬が怖いとか高い場所が怖いなどの特定の事柄に対する恐れの感情のことで、恐怖と呼ばれます。3つ目は、突然に生じる強い不安状態でパニック(恐慌)と呼ばれます。なお、病的不安の最終判断は、このような不安のために、その人の日常生活や社会生活に著しい支障を来し、本人が苦痛を感じている状態が持続している場合に行われます。

不安は感情症状ですが、不安を感じているときに胸がどきどきすることは誰でも経験することです。このように、不安は、身体症状を伴うことが多いという特徴があります。身体症状として多いものは、動悸、息苦しさ、胸が締め付けられるような痛み、めまいなど、いわゆる自律神経症状といわれるものです。自律神経とは、主として内臓や血管の働きを調節している神経のことで、自分で意識的にコントロールできず、自動的に働いているため「自律」神経といわれています。

不安に伴う身体症状は、そのこと自体がさらに不安を高めることが少なくありません。そして、そうして強くなった不安感情が、また身体症状を引き起こすという悪循環を生じることがあります。不安症状は、このように身体症状と関連性が強いことから、身体症状と精神症状の中間の症状とさえいわれることもあります。そして、不安なときに動悸がすることを繰り返していると、特に不安を感じていない状態のときでも、何らかの状況で心拍数が速くなり動悸を感じることがあると、不安を感じてしまうことがあるともいわれています。例えば、些細なことで生徒を怒鳴る先生がいて、何かでその先生に怒られ、怖くてどきどきすることが何回かあったとします。しばらくしてから、電車に遅れそうで走って駅に着いたところ、胸がドキドキして、そのうちなんとも言えない不安な気持ちに襲われてしまった、などです。このような状況になったとき、その人は、自分には今、何も心配するようなことはないのに、なんだろうこの不安は?と思ってしまうかもしれません。そのようなとき、今回の学長室の窓のことを覚えていれば、これは逆で、ドキドキが先で不安は後、だから、特に気にすることはないんだと気がつき、落ち着くかもしれません。

ただし、これは、いわゆる「悲しいから涙が出るのではなく、涙が出るから悲しくなるのだ」というのとは違います(ジェームズ・ランゲ説と言われます)。パブロフのイヌの実験と同じで、条件付けによる学習の結果と考えられます。怒られると不安を感じドキドキすることが繰り返されているうちに、叱責と不安の結びつきの他に、叱責と関係のないドキドキと不安の間にも結びつきができてしまうと考えられます。

不安という状態は、このように学習され、不安が生じるのと関係のない状況でも不安を感じるようになることがあります。不安のこのような特徴を理解することで、不安が少しでも軽くなるといいですよね。


閑話

写真はタムラソウ(田村草)です。白馬八方尾根で撮影したものです。キク科の花で、秋の花になります。「田村」という人の姓のような名前が付いていますが、その由来はよく分かっていません。たくさんの花が群れて咲いている様子から、集合していることを意味する屯(タムロ)や党(ムラ)から名付けられたという説もあるようですが、はっきりはしません。『あなただけ』というとてもロマンチックな花言葉があります。


                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        

                 



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