学長室の窓から No.28
2021年11月30日
クリスマスと馬小屋
白百合女子大学
学長 髙山 貞美
クリスマスが近づくと、街全体が華やかな雰囲気に包まれ、花屋に立ち並んだポインセチアやシクラメンなどを眺めるだけでも心が弾みます。幼子イエスの誕生を待ち望むこの季節になると、カトリックの教会や修道院では二千年前の情景を想起させるプレゼピオが飾られます。
プレゼピオ(presepio)とは、元々「飼い葉桶」を意味するイタリア語で、英語でクリブ(crib)、日本語では「馬小屋」と呼ばれています。家畜小屋や洞窟を背景に、聖家族(イエス、マリア、ヨセフ)、天使や羊飼い、東方の博士たち、牛やロバなどがそろった人形セットのことで、シンプルなものもあれば、芸術性の高い豪華なものもあります。12月24日のクリスマスミサのときに、幼子イエスの人形が馬小屋の中央に置かれることで完成します。
プレゼピオの起源は11世紀ごろにさかのぼり、それを各地に広めたのはアッシジのフランシスコ(1182‐1226年)だとされています。彼は当時住んでいたイタリア中部のグレッチョの村で、文字の読めない人々のためにイエスの誕生シーンを再現しようと考えます。そこで、洞窟に干し草を敷き、等身大の幼子イエスの人形と飼い葉桶を置き、傍らに本物の牛とロバを配置して、その前でご降誕の説教を行います。1223年の出来事です。
アッシジのフランシスコは、中世イタリアにおける最も著名な聖人の1人で、毛織物業を営む裕福な家庭に生まれ、青年時代は享楽的な生活を送っていたようです。しかし、ハンセン病患者との出会い、サンダミアノ教会での宗教的な体験等をへて回心に導かれ、やがて「小さき兄弟会」を創立し、これが現在の「フランシスコ会」「コンヴェントゥアル会」「カプチン会」に発展します。みなさんの中には、彼の生涯を描いた『ブラザーサン シスタームーン』の映画を見て感銘を受けた方もいらっしゃることでしょう。
フランシスコは、修道士のあるべき姿の象徴として、ヒバリの鳥を愛したと言われています。それは、ヒバリが修道士のような頭巾の付いた地味な色の服を着て野原を快活に飛び回り、泥や糞の中の餌をつまみ出して食べる一方で、さえずるときは地上のことには目もくれず、舞い上がって声高らかに神を讃美し、それが自身の目的であるかのように振舞っているからだとしています。
年末の慌ただしさに心と時間を奪われがちなこの時期に、貧しき馬小屋でお生まれになった救い主に思いを寄せる祈りのひとときを大切にしたいものです。