奈良時代から平安初期にかけての和歌について研究しています。和歌の修辞や表現が時代の変遷の中でどのように変化するのか、また、なぜそのように変化するのか、といったことに関心があります。この時代は現存する文献資料が少なく、我々が明らかに出来ることには限りがあります。しかし、様々な視点からの検証を通して、当時の人々の心の中の営為を理解出来る瞬間が、この時代の研究の面白いところだと思っています。
宮城野の もとあらの小萩 露を重み 風を待つごと 君をこそ待て
(古今和歌集・恋四・694・読み人知らず)
これは私が一番好きな和歌です。
「ハギノ?オギノ?」と、よく間違えられてしまう名字で難儀することもありますが、この歌の中で、枝を撓らせ露を湛えた萩の姿の美しさを思うにつけ、最高の花を冠した名前だと悦に入る人生を歩んでいます。万葉集の研究を初めてからは、集中最も数多く詠まれている植物が萩であることも分かり、ますます思い入れが増していきます。
思わぬことをきっかけに、自分の名前が愛しくなったり、脈々と続く日本の伝統が尊く感じられたり、人の心はとても面白いものです。そうしたきっかけに出会える場の一つが、文学作品だと思います。国語国文学科での勉強を通じて、面白い出会いがあることを大いに楽しみにしていて下さい。