20世紀フランス文学、とりわけマルグリット・ユルスナールの作品を研究しています。この作家の代表作は古代ローマの皇帝が語る虚構の自伝として書かれた『ハドリアヌス帝の回想』(1951)で、シュルレアリスムやヌーヴォー・ロマンといった前衛的な文学が注目されがちな時代において、古典古代の深い学識に裏付けられた独自の重厚な文学世界を構築したというのがこの作家についての定説です。その一方で、作家たちはもとより芸術家、知識人のあいだで戦間期に一大ブームとなったギリシア旅行に熱狂するなど、ユルスナールは同時代人の動向に対して無関心というわけではありませんでした。 « L’esprit du temps »、すなわち時代精神からこの作家が常に一定の距離を保ちつつも、それを無視することはせずに作品を紡いでいった過程を、同時代の文学・芸術潮流も参照しつつ明らかにしたいと考えています。
高知県生まれ。ユルスナールの蔵書研究のため、学生時代にはアメリカメイン州マウント・デザート島の作家の家を訪れることができました。学生のみなさんにも、遠くの世界、広い世界に自分を導いてくれるような対象との出会いがあることを願っています。