認知心理学の視点から、人間の思考、知識、イメージとその発達的変化を研究しています。現在は高齢期の加齢変化の研究に力をいれています。また、子どもの絵とその発達的変化にも関心があり、幼児の描いたさまざまな絵を集めたり実験をしたりしています。
大学時代の学部は教育学部、大学院も教育学研究科でした。学部生の頃は、心理学をどこかうさんくさいものと感じて敬遠していましたが、大学院で指導をうけた先生や先輩に認知心理学や発達心理学を専門にしている人たちがいて、気がついたら心理学を専門にしていました。はじめは違和感があったにもかかわらずそれほど無理なく心理学の道に進んだのは、当時から関心のあった子どもの絵を、心理学の研究として扱えることを知ったからです。子どもの絵は、かわいいという以上に、一つ一つがとてもユニークで面白いものです。大人は、いくら子どものように描こうとしても、あのような突き抜けた感じの奔放な絵になりません。どこか整った、いわゆるヘタウマの絵にしかならないのです。そういった子どもの絵独特の面白さを、実験や観察によって学問的にアプローチできることを知り、心理学はけっこう懐(ふところ)が深くて面白いと思うようになりました。現在は、高齢期の認知的加齢研究とともに、子どもの絵の発達を、芸術的視点を取り入れて(アール・ブリュット/アウトサイダー・アートを勉強しながら)まとめています。
ところで、ひとつ問題。下にある子どもの絵は、何人の子どもが描いたものでしょうか。(答は本ページ「経歴」欄)
大学院生のときに幼児の空間認知の発達で博士論文を書き、学位を得ました。それと前後してドイツのマックスプランク研究所に留学し、ポール・バルテスのグループで生涯発達心理学を学びました。生涯発達心理学では、発達の可塑性(学習可能性)を明らかにすることが重要なテーマです。単に子どもから高齢者まで長いスパンで発達をみればよいというわけではなく、さまざまな時期を通して人間がどれだけ「変わり得るか」を明らかにしようとします。可塑性が特に問題になるのは人生後半——高齢期です。高齢期の認知研究は脳科学と強く結びついて、世界的にとてもホットな研究分野なのですが、日本ではもう一つ活発でないようです。若い世代の人たちには、子どもの発達だけでなく、ぜひ加齢研究に関心をもってほしいと思います。