文学部 フランス語フランス文学科
言葉で人を動かすには、何が大切でしょうか?同じことを言っているのに、「なるほど!」とすぐに納得できる人もいれば、「それって本当?」と疑ってしまうこともあります。なぜでしょう?それは、話の中身だけでなく、「この人の言うことなら信じてもいい」と思わせる見た目や態度も、大きく影響しているからです。つまり、人に伝えたいなら、何を言うかだけでなく、誰が言うかもとても大切なのです。この「伝える人自身のイメージ」をエートスと呼びます。私は、言葉で人を説得する技術――レトリックの中でも、特にこのエートスに注目して研究しています。レトリックとは、もともと「言葉を使って人を納得させる技術」のこと。古代ギリシャのアリストテレスは、レトリックを「どんな場合にも使える説得の手段を見つける技術」と定義しました。つまり、レトリックは単なる「美しい言葉」や「巧みな言い回し」ではなく、相手を納得させるために言葉をどう使うかを探求する学問なのです。私は、フランスの修辞学者オリヴィエ・ルブールが提唱した「修辞学的読解」という方法で、作品を読み解く研究も行っています。これは、文章の中で使われている言葉の工夫(文彩)や論の組み立て方(論法)を分析し、「なぜこの議論は説得力があるのか」「なぜ納得しにくいのか」を明らかにする読み方です。たとえば、18世紀の哲学者・思想家であり、社会契約論や教育論でも知られるジャン=ジャック・ルソーの文章を取り上げ、彼がどんな工夫で相手を説得しようとしたのかを、具体的な型に分けて分析しています。こうして見えてくるのは、ただの「うまい話し方」ではなく、その人ならではの論のスタイル――つまり、「論体」とも呼べる個性なのです。
大学院 フランス語フランス文学専攻・ 言語・文学専攻(博士)
「訴訟趣意書」(mémoire judiciaire)と呼ばれる法定書類が18世紀フランスにあったのですが、これを「自己イメージ」の観点から研究できないものかと考えています。法廷書類というといかにも堅苦しいですが、「訴訟趣意書」は18世紀後半におけるフランスの三面記事的事件を巧みな語り口によって報告してくれます。今のところは、この「訴訟趣意書」を読むだけで精一杯ですが、「自己を語るエクリチュール」(écriture de soi)が啓蒙の世紀に成立・発展した歴史・社会的背景を「スキャンダル・ジャーナリズム」との関係から解明できればと考えています。
趣味はマラソンです。自己ベストは3時間22分。

越 森彦 教授(文学部長)
- 専門分野
- 18世紀フランス文学
担当科目
フランス語フランス文学科
- フランス語総合IA・IB(既習クラス)
- フランス文学概論
- 専門ゼミ「レトリック ー 言葉による説得の技術を学ぶ」
- フランス文学歴史研究G
- 卒業論文
担当科目の内容
フランス語フランス文学科
フランス語総合IA・IB
一年生の既習者を対象にして、文法を教えています。「日本人がいつまでもたっても外国語ができるようならないのは、文法の細かいことばかり気にしているからだ」といった類の俗説に惑わされないようにしましょう。また、近年、否定的に捉えられることの多い「文法・訳読方式」ですが、「和訳」という作業を通じてしか確認できないことがあります。本当にフランス語の文章を読めているかどうかを確認するためには、母語である日本語を媒介とするのが一番よいし、それ以外手段がありません。文法と和訳抜きの学習でも、いわゆる旅行会話程度ならマスターすることができるでしょう。しかし、大学とは旅行会話以上の、それ以外の何かを追求する場であるはずです。
フランス文学概論
この授業では、フランス文学史に残る重要作品の中でも比較的読みやすいものを抜粋で読んでいきます。その際には、ただ読んで感想を言い合うだけでなく、文体を分析して、自分なりの解釈を導き出せるように訓練します。文体の分析にしろ作品の解釈にしろ、何もない状態からは何も生まれません。より深く、より楽しく読むためには、やはり最低限の予備知識が必要となります。この授業では、文学史に関する予備知識を習得するところから始めます。次に、その知識を実際の読解においてどのように活用させることができるのかを検証します。
専門ゼミ
レトリック —— 言葉で人を動かす技術を学ぶゼミ
ゼミは、先生の話を聞くだけの場所ではありません。このゼミでは、自分でテーマを見つけて、自分で問いを立てて、自分で答えを出すことを目指します。そして、なにより大事なのは、自分の意見を相手にきちんと伝え、納得してもらう技術――これこそがレトリック(言葉による説得の技術)です。この力を身につけることが、ゼミの一番の目的です!そんなゼミの進め方は、ちょっと変わっていて、こんな特徴があります。
- 文学作品を使ってトレーニングします。
フランスの小説やエッセイを題材に、登場人物や作者がどんなふうに自分の考えを伝えているかを分析します。
- 自分の研究テーマは自分で決めます。
「これを読んでみたい!」と思う作品を自分で選びます。先生も知らない作品にチャレンジするのがオススメです!
- 発表して、議論します。
毎回のゼミでは、最初に誰かが自分の研究について15~20分で発表。そのあと、みんなで15~20分かけて自由にディスカッションします。
- レポートや論文の書き方もステップアップしながら学びます。
ただ思ったことを話すだけじゃなく、どうすれば「説得力のある意見」になるのか、きちんと学んでいきます。言葉で人とつながりたい。言葉で世界を変えたい。
そんなあなたを待っています!
業績
- « L’affaire Rousseau-Hume : vers l’éducation du lecteur » (『人文学報』第355号、東京都立大学人文学部、2004年)
- « Les images de soi chez Jean-Jacques Rousseau : l’autobiographie comme politique » (2007年1月に口頭審査を受けた博士論文。グルノーブル・スタンダール第三大学提出)
- « La provocation (?) de Rousseau –L’implicite dans la «dédicace» du second Discours » (『日本フランス語フランス文学研究』第92号、日本フランス語フランス文学会、2008年)
- 「ルソーによる、ルソーのためのカリカチュア -「礼節」を込めて」(『人文学報』第406号、首都大学東京都市教養学部人文・社会系 東京都立大学人文学部、2008年)
- 『白百合で学ぶフランス文学』(共著、弘学者、2011)
「文学研究をめぐる座談会」という対話形式の文学入門です。文学なんて自分には関係ないと思っている人もぜひ読んでみてください。 - Les images de soi chez Jean-Jacques Rousseau : l’autobiographie comme politique, Classique Garnier , 2011.
ヨーロッパ文学最初の自伝である『告白』を書いたので、ルソーというと赤裸々に自己の人生や私生活に描いた作家というイメージが強いです。しかし、ルソーは自分が読者に与えたいというイメージを巧みに計算して書いているのではないか?という疑問をもとにして書いたのがこの本です。ルソー好きには結構ショックかもしれません。 - 『語学・文学研究の現在II』(共著、弘学社、2012)
- 『ルソーと近代-ルソーの回帰・ルソーへの回帰』(共著、風行社、2014)
- 『文学と悪』(共著、弘学社、2015)
- 「ヴォルテールの『リスボンの災禍についての詩』とポウプ流オプティミズム : 《 Whatever is, is right.》 vs 《 Tout est bien. 》」(白百合女子大学『研究紀要』第51号、2015)
- 『2016年度版仏検公式ガイドブック 傾向と対策+実施問題 準2級』(共著、公益財団法人フランス語教育振興協会(APEF)、2016)
- 「論争家ルソー : 『ヴォルテールへの手紙』のレトリック分析」(中央大学人文科学研究所『人文研紀要』第84号、2016年)
- « Le mémoire judiciaire et Les Confessions de Jean-Jacques Rousseau : scène judiciaire et écriture de soi »(中央大学人文科学研究所 『人文研紀要』 第90号、2018年)
- 「ルソーの『エフライムのレヴィ人再考—連想遊戯のような解釈を疑う」(『引用の文学史 フランス中世から20世紀文学におけるリライトの歴史』、篠田勝英・海老根龍介・辻川慶子編、 水声社、 2019年)
- 「ジャン=ジャック・ルソーのレトリック 『学問芸術論』における論点の変更」(⽩百合⼥⼦⼤学『研究紀要』第56号 2020年)
- 「ジャン=ジャック・ルソーのレトリック(2) 『ボルド氏への最後の回答』における水掛論批判」(⽩百合⼥⼦⼤学『研究紀要』第57号 2021年)
- 「ジャン=ジャック・ルソーのレトリック(3)『ダランベール氏への手紙』における保守派の論争(上)」(白百合女子大学『研究紀要』第58号 2022年)
- 「ジャン=ジャック・ルソーのレトリック(4)『ダランベール氏への手紙』における保守派の論争(中)」(白百合女子大学『研究紀要』第59号 2023年)
- 「よく読むためのレトリック:文彩の説得機能」(白百合女子大学言語・文学センター『言語・文学研究論集』第24号 2024年)
- 「ジャン=ジャック・ルソーのレトリック(5)『ダランベール氏への手紙』における保守派の論争(下)」(白百合女子大学『研究紀要』第60号 2025年)
経歴
- 上智大学外国語学部フランス語学科卒
- 東京都立大学院にて修士号(文学)取得
- グルノーブル・スタンダール第三大学にて博士号(文学)取得
- 首都大学東京での非常勤講師を経て現職
所属学会
日本フランス語フランス文学会