19世紀フランス文学、特にジェラール・ド・ネルヴァルの作品を研究しています。
博士論文では、19世紀の歴史、宗教、社会思想を視野に入れつつも、『幻視者たち』という作品に焦点を絞り、ネルヴァルの歴史意識について考察を行いました。歴史家ではない一人の詩人がいかに歴史を捉えているのか、一見歴史を描いたとは思えない作品にこそ同時代の歴史記述を解体するような批判的まなざしが見られるのではないか。このような観点から『幻視者たち』の精密な読解を試みました。現在は、歴史記述や証言の問題に加えて、ロマン主義の諸問題、引用や借用という「書き直し(リライト・レクリチュール)」の形式、大衆文化とメディアの問題にも関心を持っています。ネルヴァルにおける過去は、——諸神話の起源の探求であれ、書物や伝説に残された言葉の収集であれ——、遠く離れ、生命の枯渇した遺物としてではなく、いつでも蘇りうる生命を帯びたものとして現れるように思われます。ネルヴァルが現在に生きる過去の記憶をいかに作品に留めようとしているのか、今後も考えていきたいと思います。
大阪で生まれ育ち、京都とパリで学生時代を過ごしましたが、東京で暮らすのは今回が初めてです。白百合の緑豊かな落ち着いた環境の中で学生のみなさんとご一緒できることをとても嬉しく思っています。私は卒業論文のテーマにネルヴァルを選んで以来、修士論文、博士論文と同じ作家を読み続けてきました。作品数も少ない作家ですが、ネルヴァルという繊細な知性を繰り返し読むことで、19世紀という時代について、また文学と社会の関わりについて自分なりの理解が得られてきたように思います。今後はみなさんと一緒に作品を読み、19世紀の文学と社会について理解を深められることを楽しみにしています。